交通事故の和解交渉や訴訟を進めていく中で,いざ車検証を確認すると,所有権留保等がされており,依頼者又は相手方の車両の所有者が第三者であることが多々あります。
依頼者の車両の所有者が第三者である場合,車両を運転していた依頼者が相手方に対して車両の修理費用を請求したいと考えていても,修理費相当額の損害賠償請求権は車両の所有者に帰属しており,車両の使用者である依頼者が請求することはできないのではないかとも考えられるところです。
この点について,赤い本下巻2017年55頁以下でも検討されていましたので,車両の使用者が修理費用を請求する場合の要点をまとめてみました。
まず,車両が損傷し,修理を要する状態になった場合には,これにより車両の価値が少なくとも修理費相当額下落すると考えられるところ,使用者は,所有者と異なり,当該車両の交換価値を把握していないため,当然に修理費相当額の損害を被ったとはいえません。
しかし,使用者が修理をして,修理費を支払っていた場合には,所有者は実質的に修理費相当額の支払を受けたと考えることができるため,民法422条の賠償代位の規定を類推適用して,所有者が加害者に対して有していた修理費相当額の損害賠償債権を代位すると考えることができます。
一方で,使用者が修理をせず,かつ,修理費を支払っていない場合には,民法422条の類推適用を使うことはできません。
もっとも,所有権留保付売買の買主である場合には,買主は売主に対して担保価値を維持する義務がありますので,車両が損傷して修理を要する状態になれば,買主は当該車両を修理する義務があるといえます。したがって,買主が修理をせず,修理費を支払っていない場合でも,修理をし,修理費を負担する予定があれば,修理義務を負う買主に修理費相当額の損害が発生しているといえます。
また,リース契約のユーザーである場合においても,リース契約において約款上ユーザーが修理義務を負う旨が明記され,ユーザーも修理をする予定があれば,修理義務を負うユーザーに具体的に修理費用相当額の損害が発生したといえます。
しかし,単なる車両の賃借人,使用借人であるにすぎない場合には,当然に賃借物の修理義務を負いませんので,修理費相当額の損害賠償請求をすることはできません。
ただし,このような場合でも,使用者が,所有者から修理費相当額の損害賠償請求権を譲り受けた場合には,使用者が加害者に対して損害賠償請求を求めることができます。
交通事故が起きたときには,まずは自分が相手に対して修理費を請求できるかどうか確認する必要がありますが,上記のように様々な場合がありますので,ご注意ください。