債務整理の依頼を受けている中で,時効期間が経過した後に,貸金業者等の債権者が訴訟等の手続きに移行しているケースがしばしば見受けられます。
仮に,時効が完成する前に,訴訟や支払督促により権利が確定した場合には,訴訟等が終了した時から新たに時効が進行し,その後10年が経過しなければ時効は完成しません(民法147条,169条1項)。
では,時効期間経過後,債権者が訴訟等の手続きに移行し,債務者が裁判等に出頭等せず消滅時効の主張もしなかったために,債権の存在を認める判決等が確定してしまったときにも,その後に債務者は時効が完成しているとして,債務の支払いを拒絶することはできないのでしょうか。
時効完成後の支払督促については,民法改正前の事案ですが,宮崎地判令和2年10月21日は,以下のとおり判示して,消滅時効が新たに進行することはないと判断しています。
「時効の中断とは,中断の事由が生じることにより,その時までに時効が進行してきたという事実が法的効力を失い,その事由が終了した時から新たに時効が進行するというものであり,時効が完成した後に上記改正前の民法147条各号の事由が生じても,時効が中断することはないから,本件貸金債権の消滅時効が完成した後の本件仮執行宣言付支払督促の確定により,その消滅時効が中断することはない。」
上記裁判例によれば,時効完成後に支払督促が確定しても,消滅時効を主張して債務の支払いを拒めることとなります。
もっとも,債権の存在が判決により確定した場合には,話は変わってきます。
すなわち,簡単に言えば判決には紛争を蒸し返すことを禁止する既判力という効力が認められているため,判決確定後には再び消滅時効の主張ができなくなります。
上記裁判例においても,原判決が仮執行宣言付支払督促の確定により,新たに10年間の時効期間が進行を開始し,この新たな時効期間の完成前になされた消滅時効の援用により,貸金債権が消滅することはないと判断したことに対して,「本件仮執行宣言付支払督促は,これが確定した後でも既判力がない以上,この確定前に完成した本件貸金債権の消滅時効を援用することにより,本件貸金債権が確定的に消滅することとなるから原判決の判断は失当である」と指摘されており,支払督促に既判力がないことが前提となっております。
借金等を何年も放置し,時効が完成している場合であっても,その後に債権者から訴訟提起され何もせずに判決が確定してしまうと,既判力により時効消滅していると言えなくなってしまうので,借金を何年も放置されている方は,まずはお近くの弁護士に相談されるのが宜しいかと思います。